2025-05-29

連歌のルール(10)~4回・5回まで使える語

 
牡丹花肖柏像
国立文化財機構所蔵品統合検索システムの画像を一部拡大して使用

今回は一座四句物と五句物をまとめてやりましょう。

一座四句物

現代語訳を一覧表にします。

用語分類・注記
このほかに春雪は1回まで、にせものの雪は雪に含まない。しかし最近はこれらを含め4句とするようになった。
春雪は雪とは面を替えること。
氷室の雪は春季である。富士の雪は冬以外でも扱われる。
有明四季それぞれで1回ずつであることは既述
単なる関で1回、名所で1回、恋で1回、「春・秋を止める関」などと言って1回。
ただし恋と「春・秋を止める関」を合わせて1回とすべきという意見あり
単なる氷で1回、つらら、たるひで1回、月の氷、泪の氷などと言って1回、霜・雪(の氷)などに1回。
氷室はここに含まない
単なる鐘で1回、入相の鐘で1回、釈教で1回、異名で1回。
釈教と異名の区別はあいまいであろうか。違いを詮議する必要はないという意見あり
空だのめなどと言うのはここには含まれない。空め、空ごとなども同様。半天(なかぞら)は面を替えて使うこと
神祇として2回、皇居として2回使用できる。ただしそのうち1回は名所であること
「朝」の字(朝風、朝霜など)懐紙を替えること
「夕」の字(夕風、夕霜など)上に同じ
単なる鳥で1回、春鳥で1回、小鳥・村鳥で1回、鳥獣で1回。かりばの鳥・浮ね鳥・夜鳥などはここに含まない
ほたる火はここに含まない
「玉」の字にせものの玉、賞美の詞の玉なども含まれる
「葉」の字草の葉、竹の葉などは間に4句をはさむこと
「寝」の字旅寝、ひとり寝などのこと。「ぬる」と言った場合はここに含まない
「天」の字
「屋」の字
枢、関戸、谷戸などとは折を替えること

連歌新式の記述にはまどろっこしいところがあります。たとえば雪の項、この式目の原形である『連理秘抄』では「単なる雪で3回。そのほかに春雪で1回」といたってシンプルなのですが、肖柏はいろいろ注釈を書き足しています。おそらく、連歌がさかんになるにつれてさまざまなケースが出てきて、連歌師によって言うことが違ってきたりして、あちらこちらに気を遣う必要が出てきたのでしょう。

雪の項、「にせものの雪」とは「花の雪」(落花を雪にたとえた)、「頭(かしら)の雪」(白髪のこと)などを指します。「富士の雪は冬以外でも扱われる」とありますが、たとえば次の「紫野千句第六百韻」(1357~1370)の三折表では

 秋こそ今は半(なかば)すぎぬれ     周阿
東路の野は夕露の富士の雪         南阿
 いるときしらぬ中空の月         救済

と富士の雪が秋の場面で出てきますし、「心敬山何百韻」(1475以前)の発句では

ほととぎす聞きしは物か不二の雪      心敬

と夏の句になっています。

有明の項についての疑問は、前回述べました。

空の項、「空だのめ」は「頼みにならないことを頼みに思わせること」。「空め」は見間違えること。「空ごと」は絵空事。

鳥の項、「村鳥」は群がっている鳥。「かりばの鳥」は雉のことで、鷹狩の際に用いられる語。

玉の項、にせものの玉とは露の玉、滝波の玉などのこと。賞美の詞の玉とは玉椿、玉簾など。

一座五句物

用語分類・注記
単なる世で1回、憂世・世中で1回、恋の世で1回、前世で1回、後の世で1回。
「浮世」など特定の世を別に数える説があるが、信用しがたい。述懐にかかわる世は2回使ってよいという意見がある。
「仏の世」は前世か後の世のどちらかとして用いる
単なる梅で1回、紅梅で1回、冬木として1回、青梅で1回、紅葉で1回。
青梅・紅葉などは自然の景色として描かれるべきである
単なる橋で1回、御階で1回、梯で1回、名所で1回、うき橋で1回。
御階は特別の題材である。
うき橋は「夢の浮橋」などとして1回使用できる

五句物の説明にはそれほど難しい点はないと思います。

ただ、私は思うのですが、いくら長い百韻とはいっても、一巻に5回も「梅」や「橋」が出てくるというのは不自然すぎないでしょうか。5回使えるというよりも、これらにはこういう使用法があるよという例示の面が強いのではと思うのですが、どうでしょう。